前略、さようなら。

一文字一文字を記していくことですべてを過去にしていきたい。

超短編小説書いてみた。タイトル「社畜の木」

 

 

 

 


23時。
私はいつもここにやってくる。
7階建てのビルの隅っこにある駐輪場だ。
今日も3台ほどの自転車が置いてある。
置いてあるというよりは放置されたままという感じだ。
まるで私と同じだな。
皮肉な笑みを浮かべてしまうが、すぐにいつもの表情に戻ると

ひざを抱える体勢で地面に座る。

 

 

その駐輪場の隣には
大きな木がある。
その大きな大きな木は「社畜の木」と呼ばれている。
社畜の木」には一年中実がなる。
誰にも手に取ってもらえず、熟して落ちるだけの実

 

 

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ビルから明かりが消えはじめ
辺りが静かになると
決まって大きな音がする。

 

 

ドーン
バーン
若干鈍い音だが
まぁ、そんな音だ。
私は黙ってその実が落ちる音を聞くだけ。

 

 

朝になり日が昇ると悲鳴が聞こえて
救急車やパトカーがやってくる。
野次馬が顔をしかめている。
中には泣いている人もいる。

 

 

飽きもせず毎日がその繰り返し。

 

 

 

 

そして落ちた実は
数時間後には
私の隣に座り言う

 

 


「あなたもでしたか」

 

 

30代くらいの男性は几帳面な程に整えられた髪とグレーのスーツ姿。
首には写真付きのネームがぶら下がっている。

 

 

 

 

同じ会社にこんな人がいたのか。
彼もまた私の首からぶら下げられた物を見つめている。

やる気に満ちている私の写真は滑稽だといつも感じる。

私の顔、私の名前。

これが私?

私はいったい誰なんだろう?

 

 


私は彼らとは会話をしないと決めている。
なので、彼もまた所在なさげに空(くう)をみていた。
表情は穏やかな印象だ。
そして翌日の23時、彼はいなかった。

 

 


そのかわりなのか、献花台に添えられている大量の花束から

白い花びら達が私に向かって飛んできた。
そう思っていたらそれは花びらではなく雪だった。
あぁ、季節はまた冬なんだな。

 

 

 

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そうか、私も彼も浄化されるのか。
きっと今の私も穏やかな表情をしているはずだ。
そう信じて夜が明けるのを待った。

 

 

 

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(終わり)